不育症

不育症とは

「不育症」とは、妊娠したものの流産や死産を2回以上繰り返し、元気な赤ちゃんを分娩することができない状態をさし、3回以上の連続した流産を習慣流産、2回続けての流産を反復流産と呼びます。通常、化学妊娠(化学流産)は不育症の流産回数には含めません。

流産の多くは受精卵の偶発的な染色体異常で起こることが知られ、母体の年齢の上昇により頻度が増えるため、この流産は治療で防ぐことはできません。

自然流産が3回以上続く場合は、その原因が母体側の年齢以外にもある可能性もあり、検査が必要となってきます。不育症についてはまだ分かっていないことが多く、検査を行っても大半は原因が特定できないとされます。

しかしながら、不育症の方が検査を行うと、一定以上の頻度で見られる異常があり、「これらの因子があると流産しやすい」という意味で「リスク因子」と呼ばれています。

不育症の原因(リスク因子)

子宮形態異常

子宮形態異常とは子宮の形や構造に異常がある状態で、以下のような種類があります。

双角子宮(そうかくしきゅう)子宮が2つの角に分かれている状態
中隔子宮(ちゅうかくしきゅう)子宮の内部に仕切り(中隔)が存在する状態
単角子宮(たんかくしきゅう)子宮が片方しか発達していない状態
重複子宮(じゅうふくしきゅう)子宮が2つに完全に分かれている状態

子宮形態異常は、卵管造影検査やMRIなどで不妊治療の初期段階でわかることもありますが、すぐに手術適応になる頻度は高くありません。

しかし、時に子宮腔の変形や着床部への血流が不十分になることから、着床や胎児の成長に影響することがあります。

甲状腺異常

甲状腺は代謝やホルモンバランスに関与し、妊娠の維持に大きな影響を与えるため、甲状腺機能の異常が不育症を引き起こすことがあります。 

具体的には、以下のような異常が挙げられます。

1.  甲状腺機能低下症

甲状腺ホルモン(T4、T3)の分泌が低下する状態です。代謝が低下し、不妊や流産のリスクが高まります。妊娠中は甲状腺ホルモンが胎児の発達に必要なため、ホルモンが不足すると妊娠維持が困難になります。 無症状であっても甲状腺刺激ホルモン(TSH)が高い場合は流産リスクが上がることが知られています。

2.  甲状腺機能亢進症(バセドウ病など) 

甲状腺ホルモンが過剰に分泌される状態です。代謝が過剰に活発化し、流産や早産のリスクが増加します。 不整脈や血圧上昇が起こることがあり、妊娠中の母体と胎児に悪影響を及ぼす可能性があります。 

糖尿病に伴う代謝異常

糖尿病は体内のホルモンバランスや生殖器の機能に影響を及ぼすことがあるため、不育症のリスク因子になります。しかし、食事、運動、薬物療法を含む血糖値のコントロールをしっかり行うことで、健康的な妊娠の維持が期待できます。

染色体異常

両親の染色体異常

染色体異常は、精子や卵子の形成時、あるいは受精後に起こることがあり、遺伝情報の不一致や欠損、過剰などが生じることで、妊娠の成立が難しくなることがあります。

▼染色体異常の種類
数的異常染色体が通常よりも多い(トリソミーなど)または少ない(モノソミーなど)ことがあります。例として、男性で見られるクラインフェルター症候群(47,XXY)や女性で見られるターナー症候群(45,X)などがあります。
構造的異常染色体の一部が欠けたり(欠失)、逆向きになったり(逆位)、他の染色体と交換されたり(転座)することがあります。 これらの異常があると、正常な妊娠が難しくなることがあり、習慣性流産や不妊の原因となることもあります。

胎児の染色体異常

流産の原因として最も頻度が高いのが、胎児の染色体異常です。例えば、通常は2本であるべき染色体が1本多い「トリソミー」などがあります。胎児の染色体異常は偶発的に発生することが多いです。

抗リン脂質抗体陽性

抗リン脂質抗体は血液中に存在し、血栓形成を促進する作用があります。その結果、胎盤の血管に血栓ができやすくなり、胎児への酸素や栄養の供給が妨げられます。

また、最近の研究では抗リン脂質抗体が胎盤周囲に炎症を引き起こすことも分かってきました。これらの作用により、流産や死産のリスクが高まります。

抗リン脂質抗体症候群と診断された場合、適切な治療を行うことで生児獲得率が向上することが知られています。

第XII因子欠乏

第XII因子は血液凝固に関与する因子で、その欠乏は血栓形成のリスクを高める可能性があります。また、第XII因子欠乏症は胎児発育不全、妊娠高血圧腎症、34週未満の早産のリスクファクターであるとの報告もあります。

しかし、第XII因子欠乏症と不育症の関連性については、まだ十分なエビデンスが確立されておらず、有効性のある治療法も明確ではありません。

プロテインS欠乏・プロテインC欠乏

プロテインSやCには血液凝固を抑制する作用があり、その欠乏は血栓形成を促進します。特に妊娠中は血液凝固系が亢進するため、胎盤や胎児の血管に血栓ができやすくなります。

これにより胎盤機能が低下し、胎児への酸素や栄養の供給が妨げられ、流産や死産のリスクが高まります。また、胎児発育不全や妊娠高血圧症候群などの妊娠合併症のリスクも上昇します。

日本人は欧米人よりもプロテインS欠乏症の頻度が高いことも特徴です。

同種免疫異常

NK(ナチュラルキラー)細胞

NK細胞は、体内で感染や腫瘍細胞を攻撃する重要な役割を果たします。しかし、不育症においてはNK細胞の過剰な活性化が胎児や胎盤を攻撃し、流産のリスクを高める可能性があるとされています。 

Th1/Th2

体内の免疫バランス、特にヘルパーT細胞(Th細胞)の1型(Th1)と2型(Th2)の比率を評価するために行われます。不育症は、妊娠が維持できない状態であり、免疫異常がその一因と考えられています。

Th1細胞は、細胞性免疫を促進し、ウイルスや腫瘍に対する防御を強化しますが、過剰になると自己免疫反応や炎症を引き起こすことがあります。

Th2細胞は、体液性免疫を促進し、抗体の産生を助けます。しかし過剰なTh2反応は、アレルギー反応や妊娠中の免疫寛容に関与します。 

妊娠を維持するためには、母体の免疫系が胎児を攻撃しないような免疫寛容が必要です。通常、妊娠中はTh2型の免疫反応が優位となり、胎児を異物として排除しないよう調整されます。 

しかし、Th1型反応が優位になると、胎児や胎盤組織に対する攻撃が増し、流産や着床障害などが起こる可能性があります。

その他:原因不明不育症

不育症の約60〜70%は原因が特定できない「原因不明不育症」に分類されます。これには、現在の医学では原因を特定できないケースや、複数の軽微な要因が重なっているケースなどが含まれます。

不育症の検査

前述のリスク因子を特定するために、以下のような検査を行います。

検査内容
子宮形態の検査超音波、子宮卵管造影、MRIを行います。
内分泌検査75gOGTT検査を行います。
夫婦の染色体検査染色体Gバンドを行います。
抗リン脂質抗体検査抗CLβ2GPI複合体抗体、抗カルジオリピンIgG抗体、抗カルジオリピンIgM抗体、ループスアンチコアグラントの検査を採血で行います。この検査で血栓症、妊娠合併症(流早産・胎児死亡など)、自己免疫疾患のリスクがわかります。
第Ⅻ因子欠乏検査採血で行います。ループスアンチコアグラント陽性の場合は値が低く出ます。
プロテインS欠乏症検査プロテインC欠乏症検査採血で行います。血栓のリスクがわかります。

不育症の治療

不育症の治療は、検査で特定したリスク因子に応じて選択されます。

子宮形態異常に対する治療

手術による修正が行われる場合もありますが、形態異常の種類や程度によって異なります。

甲状腺異常に対する治療

甲状腺機能低下症に対しては、甲状腺ホルモン補充療法(レボチロキシン)が一般的です。

染色体異常に対する治療

染色体異常による不育症の治療には、根本的な治療法は存在しませんが、体外受精と着床前診断を組み合わせることがあります。これは、体外受精で得た受精卵に対して染色体検査を行い、正常な染色体を持つ胚を選んで子宮に移植する方法です。

抗リン脂質抗体陽性に対する治療

低用量のアスピリン・ヘパリン療法を検討します。不育症の専門医に相談し、個々の症例に応じた適切な治療方針を立てます。

第XII因子欠乏に対する治療

第XII因子欠乏症以外の不育症のリスク因子(抗リン脂質抗体症候群、子宮形態異常など)についても評価を行い、不育症の専門医に相談し総合的な治療計画を立てます。

プロテインS欠乏・プロテインC欠乏に対する治療

血栓症の既往、プロテインS活性の値、プロテインC活性の値、他の凝固系因子のリスクファクターなどを総合的に判断し、不育症の専門医に相談し治療方針を決定します。

同種免疫異常に対する治療

Th1/Th2比が基準値よりも高値の場合には、タクロリムスを内服します。

不育症の検査・治療にかかる費用

保険で実施できる検査(税込・諸経費別)

保険で実施できる検査費用
抗核抗体300円
抗CLβ2GPI複合体抗体670円
抗カルジオリピンIgG抗体680円
ループスアンチコアグラント800円
子宮卵管造影4,200円
TSH + freeT4660円
75gOGTT2,760円
染色体(妻)9,040円
染色体(夫)9,040円

自費で実施できる検査(税込・諸経費別)

自費でできる検査費用
第Ⅻ因子活性3,140円
プロテインS活性2,340円
プロテインC活性3,250円
抗カルジオリピンIgM抗体3,190円
慢性子宮内膜炎22,000円
NK活性6,864円
Th1/Th230,800円
ネオセルフ抗体38,500円

当院の不育症の検査・治療について

不育症の患者様に対し遺伝子解析や免疫学的検査を含む包括的な検査を実施し、患者様一人ひとりに寄り添う姿勢で診療を行っています。

同時に、より専門的な治療が必要な場合には適切な専門機関への迅速な紹介を行い、最善の医療を提供できるよう努めています。

不育症でお悩みの方々の希望を叶えるため、最適な医療サポートをご提供いたします。