子宮内フローラ検査

子宮内フローラ検査とは

私たちの子宮内には、これまで細菌は存在しないと考えられてきました。しかし近年、研究を進めた結果、子宮にも腸内と同じようにさまざまな種類の細菌叢が多数存在していることが明らかになりました。

flora(フローラ)とはラテン語で「花」を語源とし、ローマ神話に登場する花や豊穣、春の女神を表します。子宮の中にいる細菌は菌種ごとの塊となって存在し、この状態が品種ごとに並んで咲くお花畑(flora)に見えることから、「腸内フローラ」と呼ばれるようになりました。子宮内フローラ検査は、存在する善玉菌と悪玉菌、およびその割合を調べる検査です。

先進医療に認められているため費用は自費となりますが、保険診療周期で検査が可能となっています。

子宮内フローラと妊娠・出産の関係

乳酸菌の一種であるラクトバチルス菌は、妊娠適齢期の健康的な女性の膣や子宮内に豊富に存在しています。

子宮内フローラが乱れ、子宮内の善玉菌であるラクトバチルス属菌が少なくなりその他の雑菌が増えると、子宮内膜の免疫が活性化します。これにより、胚を異物として攻撃してしまう可能性や細菌性膣症や子宮内膜炎などに感染しやすくなる可能性が指摘されており、着床・妊娠の継続に影響があると考えられています。

また、子宮内の細菌叢が乱れていると体外受精の結果が悪くなることも明らかになりました。

子宮内フローラ正常群(子宮内のラクトバチルスの割合が 90%以上)と子宮内フローラ異常群(子宮内のラクトバチルスの割合が 90%未満)の女性で分けて妊娠率及び生児獲得率を調べた結果、ラクトバチルス 90% 以上のグループでは妊娠率70.6% 、生児獲得率58.8%でした。対してラクトバチルス 90%未満のグループでは、妊娠率が90%以上のグループの約半分である33.3%、生児獲得率に至っては約1/10である6.7%という結果でした。

赤ちゃんを望む女性にとって、子宮内フローラの善玉菌であるラクトバチルスの割合が多く存在する状態とするのは、とても大切なことです。

ラクトバチルス菌が少ない原因には元々の食生活、ストレスによる女性ホルモンの低下、性感染症、抗生物質の使用、膣炎や頚管炎、不適切な衛生習慣などが考えられます。また、デリケートゾーンの過剰な洗浄はラクトバチルス菌を減らす可能性があります。

子宮内に多い方が良いといわれる「ラクトバチルス」とは

子宮内に存在する善玉菌の一例としてはラクトバチルス菌(乳酸桿菌)やビフィズス菌などが挙げられ、一般的にはラクトバチルス菌の割合が多いと子宮内環境が良好といわれています。

ラクトバチルス菌は膣や子宮内で糖を分解し、乳酸を産生して生殖器内を酸性に保ちます。また、子宮内の雑菌の繁殖を防ぎ、悪玉菌の増殖を抑えられます。

ラクトバチルス菌は、以下のような発酵食品に利用されます。

・ヨーグルト
・チーズ
・ビール
・キムチ
・ココア
・納豆
・麹菌を含む味噌

ラクトバチルス菌はサプリの服用やヨーグルトなどの発酵食品から摂ることができますが、多くは胃で消化される際に死んでしまうので、膣錠を使用し直接膣内や子宮内に取り入れていきます。

なお、ラクトバチルス菌の餌はオリゴ糖を含んでいるさつまいも、大根、大豆、牛乳、はちみつ等の食品です。これらの食品を積極的に摂取すると、ラクトバチルス菌を活性化させることができます。

子宮内フローラ検査を実施すべき方

※素材提供:Varinos

・反復着床不全の方や反復流産をされている方
・さまざまな検査を行っても不妊の原因が見つからない方
・これから妊娠を望む全ての方
・不妊治療を受けても妊娠しない方
・良好胚を移植しても妊娠しない方
・ご自身の現在の子宮内環境(子宮内フローラ)を把握したい方

子宮内フローラ検査は意味がないと言われる理由

子宮内フローラと妊娠成功率、および不妊治療の結果との関連性について、十分に確立された科学的な証拠は、まだ不足している部分もあります。 

また、特定の細菌の存在が着床や妊娠の成功に影響を与える可能性が指摘されていますが、それを決定的に裏付けるデータは限定されており、検査法や結果の解釈など明確な基準もまだ確定していません。

子宮内フローラ検査は、全ての場合で「絶対に必要」というわけではありません。

しかし、

・治療を繰り返すなかで結果が出ない
・着床障害の可能性が考えられる

といった場合、追加の情報を得ることや、今後治療を進めていくなかで検査を実施しておくことが、原因を排除していくことにも繋がります。

そのため当院では、複数回胚移植を実施し、結果が出ない場合はフローラ検査の実施も検討します。

子宮内フローラ検査の実施方法

子宮内フローラ検査では、子宮内膜吸引式採取器具「メドジンピペット」、ブラシタイプの「ユイノブラシ」という筒状のようなチューブを使って検体を採取します。

採取器具を子宮の一番奥に入れて、吸引ピペットを回しながら1~2分かけて子宮内膣液を吸引したら終わりです。

※素材提供:Varinos

その中に含まれる細菌のDNAを検査会社が専門の検査装置で分析して、ラクトバチルス属菌の割合を調べます。

結果が出るまでの期間は2〜3週間程度です。

検査時期は、生理の出血が終わった頃~黄体期になります。内膜の組織をブラシで採取するため痛みを伴うことがあります。痛みの感覚は人それぞれ違いますが、人によっては生理痛に似た痛みを感じる方もいます。痛みについて不安があれば医師にご相談ください。

また検査後は性器出血がみられる場合もあります。

※素材提供:Varinos

子宮内フローラ検査を実施した後の対応

子宮内フローラ検査の結果をもとに、善玉菌を増やす治療計画を立てます。善玉菌を増やす、悪玉菌が増えづらい子宮環境にしていきます。

悪玉菌は受精卵の着床を妨げることがわかっています。そのため、炎症を起こす細菌が見つかった場合は抗菌薬を使用し、除菌治療を行いながら子宮内環境の改善を目指します。一人ひとりの子宮内環境に応じた治療を実施し、乳酸菌のサプリメントの使用や生活習慣の改善を行っていきます。

ただし、菌については相性のようなものもあり、人によっては定着しやすい菌とそうでない菌があると言われています。ラクトバチルスはとても大切な菌ですが、誰もがラクトバチルスを摂取すれば良いというわけではありません。

まずは自身の子宮内の菌環境を知り、そこで見つかった課題に対して医師とともに治療を進めることが大切です。

子宮内フローラ検査ができない方

・妊娠中の方
・月経中の方
・子宮内感染症の方
・膣炎がある方
・骨盤炎症性病がある方
・凝固異常(バイアスピリン、抗凝固剤内服等も含む)がある方
・検査時に不正出血がある方

内膜から組織を採取するため妊娠を期待する周期(タイミング周期、人工授精周期、移植周期)には実施できません。検査周期は避妊周期となります。

当院における子宮内フローラ検査の実施費用

実施費用:40,000円程度

*自費診療の検査です(先進医療の対象検査となります)

当院の子宮内フローラ検査について

当院では全胚凍結予定の採卵周期にも子宮内フローラ検査を実施しています。採卵の麻酔使用中に行いますので、痛みを伴いません。

フローラ検査を希望する方には、医師からの説明後に説明用紙をお渡しします。検査や治療内容、不妊に対する不安等はいつでもご相談ください。