体外受精(媒精・顕微受精)

体外受精の種類

体外受精には、大きく分けて「媒精」と「顕微授精」の2種類があります。

媒精(コンベンショナルIVF/c-IVF)

媒精(ばいせい)とは、精子調整後の良好な運動精子と卵子を一緒に培養し、精子の力で受精を果たしてもらう自然に近い方法です。

媒精の正常受精率は平均60~70%ですが、卵子が未熟な場合や運動精子数が少ない場合、受精障害がある場合は受精卵が得られないこともあります。

顕微授精(ICSI)

顕微授精(けんびじゅせい)とは、倒立顕微鏡下で培養士が形態・運動性の良好な1匹の精子を選別し、細いガラスのピペットで、
固定した成熟卵子に直接注入する方法です。

顕微授精の正常受精率は平均70~80%です。以下のような場合は、顕微授精が有効です。

  • ・精液所見が不良な男性不妊症の方
  • ・精子調整後の運動精子数が少ない場合
  • ・抗精子抗体陽性で媒精では受精が困難と予測される場合
  • ・過去の体外受精で受精障害があった場合
  • ・多精子受精が高率であった場合

体外受精の流れとスケジュール

体外受精は、以下のような流れで進めていきます。

  1. 卵巣刺激
  2. 採卵
  3. 採精(パートナー)
  4. 受精(媒精/顕微授精)
  5. 胚移植
  6. 妊娠判定

1.卵巣刺激:月経開始2〜5日目

月経中に来院いただき、胞状卵胞数と子宮内膜厚を測定し、検査結果などを参考に個々の状況に合わせて刺激方法を決めていきます。

卵巣刺激では、内服や注射などの排卵誘発剤を使用し、より多くの卵胞を同時に発育・成熟させ、1回の採卵で複数の卵子が得られるようにします。必要に応じて卵胞の発育を確認するために、超音波検査とホルモンの測定を行い、採卵日を決定していきます。

2.採卵:月経開始10〜14日目

卵子の最終的な成熟を促すためにhCG製剤あるいはGnRHアゴニストを投与し、その後34〜37時間後に採卵します。

採卵当日は麻酔下にて経膣超音波で卵胞を確認しながら、卵胞液とともに卵子を吸引します。採卵時間は20分以内と短く、痛みも少なく安全に行えます。

3.採精(パートナー):採卵当日

採精では男性の出番です。精液は、採卵当日の朝マスターベーションによって自宅で採取し、培養室へ提出します。

精液は密度勾配法の後、より良好な運動精子を集めるため、swim-up法という方法で集めます。また、特殊なフィルターと精子の運動性を用いて、良好な運動精子を回収する方法もあります。(ザイモート法)

4.受精(媒精/顕微授精):採卵当日

成熟している卵子と精子を、媒精または顕微授精にて受精をさせます。翌日には受精の結果がわかります。

5.胚移植

受精に成功し、正常に発育した受精卵(これを胚と呼びます)は、採卵日より2〜3日経過すると初期胚・5〜6日ほど経過すると胚盤胞になります。

この胚を子宮内に戻すことを胚移植といい、採卵周期に胚移植する新鮮胚移植と胚を凍結して、次の周期以降に戻す凍結融解胚移植があります。凍結技術が進歩してきたことや妊娠率が高いことから、現在日本では凍結融解胚移植が主流となっています。

胚移植では、経腹的に超音波でカテーテルの侵入を観察しながら、胚を子宮内に移植していきます。採卵周期に胚移植する場合は、以下の2つの方法があります。

  • 採卵後2〜3日で移植する:初期胚移植
  • 採卵後5〜6日で移植する:胚盤胞移植

6.妊娠判定:胚移植後10〜14日目

胚移植後、着床を助けるために、黄体ホルモン剤や卵胞ホルモン剤、ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(hCG)剤を投与する場合があります。

どのホルモン剤を投与するかは、卵巣から分泌される黄体ホルモンおよび卵胞ホルモンの値、卵巣の腫大の程度、腹水の有無によって決めます。妊娠判定は尿検査または血液検査にて行います。

当院における体外受精の実績

▼採卵件数

年度件数
1991〜2019年37516件
2020年1592件
2021年1701件
2022年1724件
2023年1593件

▼2023年|年齢別胚移植件数

年齢件数
〜29歳156件
30〜34歳635件
35〜39歳781件
40〜42歳409件
43歳〜161件
合計2142件

体外受精で懸念されるリスク・デメリット

体外受精では、以下のようなリスク・デメリットが懸念されます。

卵巣過剰刺激症候群

卵巣過剰刺激症候群は、体外受精の一番のリスクとして挙げられる合併症です。

体外受精では多数の卵子を得るために排卵誘発剤の注射をして卵巣刺激を行うことにより、多くの卵胞が同時に発育します。この際、あまりに多くの卵胞ができてしまうと採卵後も卵巣腫大が継続し、腹水がたまったり、お腹が張ったりします。

重症例では胸水がたまり呼吸が苦しくなったり、血液が濃縮して血栓ができることもあり、予防するために入院治療が必要になることもあります。

出血

採卵は経膣超音波下に卵巣に針を刺して行います。通常、膣壁や卵巣からの出血は自然に止まりますが、ごく稀に出血が止まらなかったり、血管を傷つけたりしてお腹の中に出血が続き、貧血になることもあります。

先天異常

自然妊娠児でも体外受精児でも、3〜5%はなんらかの先天異常があるのは変わりません。

日本産科婦人科学会では、2004年から体外受精児について個別登録を行っています。先天異常についての詳細も毎年報告されており、特定の異常が多いことはありません。

多胎妊娠

多胎妊娠は母体に大きなストレスをかけ、早産や妊娠中の合併症のリスクを上昇させます。ただし近年は胚の培養技術が上がり、1個の胚移植でも妊娠率が上昇しました。

よって、初回の胚移植は1個という原則があります。これにより、以前の体外受精胚移植に比べ、多胎妊娠は減少しています。

当院における体外受精の目安費用

▼媒精

媒精(コンベンショナルIVF)負担額の目安
保険9,600円
自費(個数による)20,000-40,000円

▼顕微授精

顕微授精(ICSI)1個2-5個6-9個10個以上
保険11,400円17,400円27,000円35,400円
自費38,000円58,000円90,000円118,000円

当院の体外受精の特徴

1. 個別化した卵巣刺激 

多くの卵子を得られれば、良好胚盤胞も多く得られる傾向にあります。

多くの良好凍結胚を確保することにより、1回の採卵で複数の妊娠をする可能性も高まります。それぞれの患者さんに合ったより良い刺激法を提案することが良好胚獲得の鍵です。

2. 子宮粘膜下筋腫や子宮内膜ポリープ合併への治療選択肢

良好な胚を移植するとき、着床のための環境を整えられる外科的治療法の選択肢があります。罹患されている場合は体外受精胚移植前の治療を考慮します。

3. ラボの高い技術とチーム医療

当院では、できるだけ標準的な方法(保険診療の範囲内)で治療を完了することを目標としています。

しかし妊娠に結び付く良好胚が得られなかった場合は、高い技術を持つ培養士が良好胚を得るために医師と討論を重ね、さらに治療をステップアップ(保険診療外や先進医療など)します。当院の治療では妊娠可能な胚が得られるよう、努力を惜しみません。