PGT-A(着床前胚染色体異数性検査)

PGT-Aとは

PGT-A(Preimplantation genetic testing for aneuploidy:着床前胚染色体異数性検査)とは、体外受精によって得られた胚の染色体数を、移植する前に網羅的に調べる検査です。

欧米では流産を防ぐ目的で既に実施されていましたが、日本では日本産科婦人科学会が命の選別につながるとの観点から認めていませんでした。

しかし、日本国内でのニーズの高まりを受け、2017年11月から2019年1月の間、日本産科婦人科学会主導による「PGT-Aの有用性に関する多施設共同研究のためのパイロット試験」が、国内の体外受精実施施設4施設において実施され、PGT-Aが有用かどうか検証されました。

その結果を科学的な方法で分析したところ、PGT-Aを受けたご夫婦と受けなかったご夫婦で、出産率に明らかな違いはありませんでした。つまり、PGT-Aによって妊娠する可能性の高い胚を早い段階(移植前)で見つけることはできるものの、 1回の採卵において最終的に子供を持てるご夫婦の数を増やすことはできない、との結論となりました。

PGT-Aを行い、正倍数性の胚だけを戻すことにより、妊娠までの時間を短縮できる可能性があります。

PGT-Aが流産の回避につながる理由

妊娠12週未満の初期に起こる流産の主な原因は、胎児の染色体異常と言われています。

ヒトの染色体は23対(46本)で、1~22番までの各1対で合計44本の常染色体と、性別を決定する1対2本の性染色体があります。これらは通常、父方からと母方からそれぞれ1本ずつ受け継ぎ1対2本となっています。

しかし、それが1本だったり3本だったりすると、その受精卵の多くは着床できず、着床できたとしても流産や死産になってしまいます。

PGT-Aをおこない、染色体の数の過不足がない胚(正倍数性胚)を子宮に戻すことにより、染色体の異常による流産を避けることができると期待されています。

PGT-Aの実施方法

体外受精による受精卵(胚)を胚盤胞まで培養した段階で、胎盤になる栄養外胚葉(TE)から、胚へのダメージが少ないとされる5~10細胞を採取(生検)します。

採取した生検細胞は凍結され、国内の検査機関に移送後、次世代シーケンサー(NGS)で解析されます。生検された胚盤胞は当院で凍結保存されます。

PGT-Aの結果判定

PGT-Aの結果は胚診断指針に基づき、以下のA~D判定の4つに分類されます。

・A判定:正倍数体(euploid)で移植に適する
・B判定:モザイク(mosaicism)で移植は可能
・C判定:異数体(aneuploid)で移植は不適
・D判定:解析結果の判定不能な胚で結果なし

これらの結果は胎盤になる部分の数細胞を解析しているため、胎児となる部分と完全に一致しているとは限りません。そのため、PGT-Aの結果と生まれてくる赤ちゃんの結果が不一致となる可能性もあります。

染色体の解析結果をお伝えするのは通常、常染色体に関する情報のみで、性染色体の情報については原則開示しません。これは、いわゆる男女の産み分けがこの検査の目的ではないからです。

ただし、性染色体に数的異常(X・XXX・XXY・XYY等)が認められた場合には、十分なカウンセリングのもと結果をお伝えすることもあります。

PGT-Aの対象者

PGT-Aは体外受精で胚移植を2回以上行っても着床しなかった不妊症の夫婦や、流産の経験が2回以上ある不育症の夫婦を対象としています。

PGT-Aの精度

PGT-Aの検査精度は94%~98%と報告されています。100%ではないため、偽陽性または偽陰性の結果が生じる可能性があります。

極まれな胎盤モザイクを心配される方は、出生前診断検査(羊水穿刺または絨毛検査)の併用をご検討ください。

PGT-Aで流産のリスクが発覚したら?

PGT-Aの解析結果で移植不適胚と判断された胚は、移植胚の選択対象外となります。

しかし、その中でも必ずしも妊娠しない、または流産するとは限らない胚(モザイク胚や判定不能胚)が含まれることがあります。そのような胚のみの結果となった場合、担当の医師と相談した上で対応を決めます。

PGT-Aを選択するメリット

・妊娠までの時間を短縮できる
・移植あたりの妊娠率が向上する
・移植回数を減らせる
・流産率が低減される
・流産率を低下させることで、流産に伴う身体的・精神的負担を避けられる可能性が高まる

PGT-Aを選択するデメリット

・胚生検時の胚への損傷により着床できない、流産となる、児への影響が出るなどの可能性がある
・検査の結果、移植できる胚が得られないことがある
・正常胚であるにもかかわらず異常胚との誤判定となった場合には、妊娠の可能性がある胚が移植対象から外れてしまうリスクがある
・胚盤胞まで育たないと検査できない
・3倍体、4倍体等の異常は判定できない
・正常と判定されても流産・死産となることがある(染色体に関連する原因以外の流産や赤ちゃんの疾病に関しては診断できないため)
・モザイク胚の判断に苦慮することもある
・胚移植あたりの妊娠率は上昇しても、採卵あたりの妊娠率には有意差がない

PGT-Aの注意点

・初期胚は検査できません。
・胚盤胞の状態によっては検査できない場合があります。
・検査ができなかった胚が異常であるということではないため、凍結融解胚移植は可能です。
・染色体の検査であるため、それ以外が原因の赤ちゃんの病気や体質は調べられません。
・性別はわかりません。
・PGT-A検査を行った場合、新鮮胚移植はできません。
・採取した細胞の状態によっては検査結果が出ないことがあります。
・検査結果が出るまでに3週間程度かかる可能性があります。

当院におけるPGT-Aの実施費用

1つの胚の検査費用:99,000円(税込)

例)3個の胚を検査した場合、99,000円×3=297,000円(税込)

PGT-Aは現在先進医療に申請中ですが、いつ頃認められるかは不透明です。生殖補助医療が保険適用となった現段階でも保険適応外のため、検査のための体外受精を含めて全額自費診療となります。